古狐は最果てに居り候

日本の山口県長門市油谷にある向津具産直市「ここや」です。向津具と書いて「むかつく」と読みます。この地は本州の西北端にあり、美しい自然と古代からの伝説が溢れる見どころ満載の場所です。「ここや」は地元の農産物や海産物を販売しながら、向津具の観光案内も行っています。

少し不気味だけど、おかしさもある、向津具半島の「エンコ」伝説

「エンコ」って何?

中国、四国地方には古くから猿猴(えんこう)と呼ばれる妖怪の伝説がありました。この妖怪の呼び名が、向津具地方ではえんこうから「エンコ」に変わって民話として残りました。名は変わっても、その内容は他の地域と、まったくと言っていいほど同じものです。この妖怪はカッパの一種ですが、姿が毛むくじゃらで猿に似ていることから猿猴と呼ばれました。金属を嫌い、海または川に棲み、泳いでいる人間を襲い肛門から手を入れて、生き胆を抜き取ると言われていました。広島市には猿猴橋がありますし、下関市菊川町中山付近を流れる木屋川沿いには猿猴塚があります。

f:id:cocoyatourism:20210517213743j:plain

悪さ好きの猿猴を捕まえて、懲らしめたとの碑文が刻まれています。

エンコ伝説をひとつ

 この伝説は向津具半島だけでも数か所にありますが、今回はひとつだけ取り上げます。

向津具八幡宮付近に伝わる民話

昔、向津具八幡宮の近くに大田という分限者(金持ち)がいました。そこの馬や牛が、本郷川の河原の柴原におりて、草を食べておりました。その近所の淵に住んでいるエンコが出て来て、馬の手綱を体に巻き付け淵の方へ引っ張り込もうとしました。ところが馬の力が強いので、あべこべにエンコを引っ張って自分の家に帰りました。それから大田の主人や近所の人が大勢集まって、エンコをひっ捕まえました。そして、「お前は、子供を水の中へ引っ張り込んでは殺してしまう悪い奴だから、きょうは仇をとるため殺してやる。」と口々に言いました。するとエンコは、「どうぞ命だけはお助けください。もう向津具には来ませんから。どうぞお許しください。」と哀願して許してもらいました。それから向津具にはエンコがいなくなったそうです。

f:id:cocoyatourism:20210517164345j:plain

向津具八幡宮参道入り口

f:id:cocoyatourism:20210517164523j:plain

八幡宮付近を流れる本郷川

エンコ伝説は向津具だけでなく、隣接する地域にも数多くあり、全てエンコが人を海や川に引っ張り込もうとする話です。口伝えにより広がる怪しげな話は、現代もありますね。「口裂け女」を覚えている方も多いのではないでしょうか。