油谷角山 (かどやま)に伝わるエンコ伝説
向津具半島を含む、長門市油谷にはいくつものエンコ伝説があります。話の内容はほとんどが、地元にいるエンコを地元民がやっつけるものです。ご当地で起こった事件という設定が、以前はやった「口裂け女の噂」にそっくりなところは、誰にも身近に起こった怪異な話を好む、ところがあることを、よく表していると思われます。
注:エンコとは中国、四国地方に伝わる伝説上の妖怪、猿猴(えんこう)のことで、この地方での呼び方。カッパの一種ですが、全身毛むくじゃらで海や川または沼に住み、人を襲い肛門から手を突っ込んで、はらわたを抜き水中に引きずり込むと言われていました。
今回は向津具半島のお隣、角山(かどやま)のエンコ伝説をご紹介します。
(https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html)
農民の知恵でエンコを懲らしめるお話。
角山地区では、お盆にため池で泳ぐと「エンコが頭からかぶりつく。」と言われておりました。ある日のこと、百姓がため池の樋を抜きに行ったところ、エンコと出会いました。
百姓「こりゃあエンコ!お前はなぜ人間を頭から食べるのか」
エンコ「頭から喰うとうまいからじゃ。」
百姓「そりゃあ間違いじゃ。人間の頭には恐ろしい歯があるぞ」
エンコ「そんなに人間の歯は恐ろしいか。」
そこで百姓は、竹とタケノコを取ってきて、鍋で煮ました。竹をエンコに渡し、自分はタケノコを取りました。百姓はガリガリ音を立てて食べているのに、エンコは歯が立ちません。人間の歯の恐ろしいことを知ったエンコは、それからは頭からかじることをやめ、尻からはらわたを抜くようになった、ということです。
筆者も子どもの頃、お盆に海で泳ぐとエンコに引っ張られるぞ、と大人から言われたものでした。昔は水難事故で亡くなる子どもが、少なからずいたはずです。両親ともに日々忙しく働き、子供への注意が行き届かなることはよくあったはずです。お盆は先祖供養の大事な日です。子供への忠告が、妖怪の仕業に形を変えて伝わったものなのでしょう。 今思えばなつかしいお話です。