古狐は最果てに居り候

日本の山口県長門市油谷にある向津具産直市「ここや」です。向津具と書いて「むかつく」と読みます。この地は本州の西北端にあり、美しい自然と古代からの伝説が溢れる見どころ満載の場所です。「ここや」は地元の農産物や海産物を販売しながら、向津具の観光案内も行っています。

「ヒトラーの忘れもの」第二次世界大戦の秘話を描いた名作。

デンマークにも歴史の中に暗部があった!

今回は2015年制作のデンマーク・ドイツ合作映画『ヒトラーの忘れ物』
をご紹介します。
ハリウッド映画ほどの前宣伝もなく、少し地味な映画であるため、まだ観ていない方も多いと思います。内容を簡略にご紹介します。まずは舞台背景から。
1945年5月、第二次世界大戦でドイツが敗北した直後のデンマーク
この国の西海岸にナチスが埋めた地雷の総数はなんと200万個!この地雷除去に駆り出されたのは、当時デンマークに取り残された2,000人のドイツ少年兵で、全撤去が終わった時には半数の少年兵が死傷していたとのこと。これは史実で、長くデンマークでは歴史の暗部とされていたようです。地雷除去ですよ。ひとつ間違えば爆発して失命する恐れのある仕事を、未成年者にさせたのです。人道に反すると言われても仕方のないことですよね。
この映画では11人の少年兵がとある海岸で、デンマーク軍の指揮官のもとに地雷除去を行う姿が描かれています。

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主人公の少年兵セバスチャンの手元には地雷が。後方はラスムスン軍曹。

指揮官はナチスを憎悪する、「鬼軍曹!」ラスムスン。少年兵たちに初対面の閲兵の時から怒声を浴びせ、過酷な任務を命じます。「この海岸にお前らの仲間が埋めた45,000発の地雷を、ひとつ残らず撤去しろ!そうすれば家に帰してやる。」

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少年兵たちを閲兵するラスムスン軍曹

少年兵に命じられた作業は、40~50cmほどの鉄筋一本で砂浜に埋められた地雷を探りあて、掘り起こし、雷管を除去し無力化して片づけること。

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ほぼ1m間隔で並んで、腹ばいになって前進して行きます。

きわめて危険な作業を、ろくに訓練も受けていない少年兵にさせたのです。当然一人、また一人と地雷の爆発により、死傷していきます。

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鉄筋を、横に数センチ間隔で刺していき、地雷を探りあてます。

冷酷非道とも言える任務のはてに。

相次ぐ同僚の死傷に激しく動揺する、セバスチャン。この姿を見たラスムスン軍曹は彼を𠮟咤して、こう言い放ちます。「僕は、家に帰る。と大声で言え!」と。そして何度も言わせます。
このシーンは映画の後半の重要な部分になっています。というのも、純真な少年たちが次々に死んでいく姿を見てきた軍曹。さすがの鬼軍曹も、このころには少年たちに情が移り、最初の閲兵の時に言った言葉通り、なんとか無事に祖国へ帰してやりたいと思うようになっていました。
軍曹役の俳優は、冷酷な指揮官から、良心の葛藤に苦しみ、やがて少年たちへの愛情を抱く、ひとりの常識ある人間に変化していく姿を、見事に演じています。

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主役の二人。セバスチャンとラスムスン軍曹。

では、なぜこの映画のような悲惨な状況がうまれたのか?それを理解するためには、まずデンマークの地図を見ていただければ、理解しやすいと思います。
地図でわかるとおりこの国はドイツの北隣にある小国です。第二次世界大戦時には、親ナチス政権が支配していました。国民もこれを受け入れていました。が、大戦末期ナチス・ドイツが敗色濃厚になったころ、連合国がヨーロッパの西海岸から大攻勢を仕掛けてくるとの情報を得たナチス本部は、可能性としてデンマークからの上陸を予想しました。これがデンマークの西海岸への地雷埋設を行った原因です。地雷原をつくることで、連合軍の上陸を阻もうとしたわけです。
ただデンマークは、このころから反ナチスレジスタンス運動が高まり、ドイツ敗戦直後にレジスタンス政権を樹立していますので、連合国と認定され戦勝国扱いされることになりました。
この結果戦勝国に対して、敗戦国が残した危険物は「敗戦国に処理させて当然!」という論理により、映画のような事態になったわけです。ラスムスン軍曹のような人物は少なからずいたのではないでしょうか。

この映画は、実に重苦しい内容で、ときには悲惨な場面も少なからず見られます。が、ラストシーンでは、それまでの沈鬱な気分を一掃して、さわやかな解放感に浸れます。安堵感と言ってもいいかと思います。
第28回東京国際映画祭では主役のふたりが最優秀男優賞を受賞しています。アカデミー賞でも外国語映画賞にノミネートされましたが、こちらは受賞できませんでした。それを割引いても、感動の名画です。まだ観ていない方、ぜひご覧ください。