古狐は最果てに居り候

日本の山口県長門市油谷にある向津具産直市「ここや」です。向津具と書いて「むかつく」と読みます。この地は本州の西北端にあり、美しい自然と古代からの伝説が溢れる見どころ満載の場所です。「ここや」は地元の農産物や海産物を販売しながら、向津具の観光案内も行っています。

キツネに化かされて、走らされた20km!

 化かされた人は、向津具半島を走って横断した

キツネに化かされて、幻影を見たり、奇行に走らされたという話は日本全国にありますが、向津具半島にもいくつかの伝説が残っています。今回は向津具らしく、川尻のクジラが絡んだお話を紹介します。この地にしては、結構スケールが大きいのも特徴です。

f:id:cocoyatourism:20210605190847j:plain

キツネに化かされて走る人。筆者によるイメージ図。

化かされた手口は?

昔、本郷平野の西南部のダラギ(現在は南方)というところに、久兵衛さんという気の利いた男の人がおりました。ある時、川尻でクジラがたくさん獲れたと聞いて、クジラを買いに川尻へ出かけました。谷河内(たにごうち)の堤のあたりに差し掛かると、狐が体にアオサ(水草)を塗って、ひとを化かす支度をしております。
「おのれ!狐ども、おれを化かすつもりか!お前どもに化かされてたまるか。」
大きな声でどなって通り過ぎて行きました。それから川尻に行き、クジラ肉をたくさん買って帰り始めました。谷河内のあたりまで帰ると、若い者たちが大騒ぎをしています。よく見ると、みんなクワや鳶口やらをかついでおります。
「こりゃあ、一体何事か?」とたずねますと、
「今、ダラギの久兵衛さんの家が火事になったげな。それで今から火消しにいくところだ。」と言って走っているのです。
これを聞いた久兵衛さんは、びっくり仰天。かついでいたクジラ肉をいつのまにか投げ捨て、若者たちについて走り出しました。ところが、走っても走っても火は見えません。おかしいな?はっ、と気がついてあたりを見回すと、なんとダラギをはるかに通り過ぎて、俵島まで走ってきているのです。
さては、キツネに化かされたな!と気が付いた時にはもう遅かったのです。
では、久兵衛さんが走ったと思われる場所の写真をいくつかご覧ください。
①まずは川尻漁港の遠景。

f:id:cocoyatourism:20210606125133j:plain

川尻漁港を1km登った山道。

谷河内の堤。前方、山のむこうが川尻漁港になります。ただし写真では見えませんが、もう一山超えなければなりません。

f:id:cocoyatourism:20210606151512j:plain

谷河内の堤。向津具半島では最大のため池です。

③行き着いたところが、俵島。山あり谷あり、それを走り抜けるとは、大変な労力だったでしょうね。しかもそれから家まで帰らなくてはなりません。気持ちが思いやられます。

f:id:cocoyatourism:20210606125317j:plain

俵島の遠景。この地点も結構高いところにあります。

久兵衛さんの走った場所を地図で見ると

南方の自宅を出て、谷河内の堤を通って、川尻漁港に行き、引き返して谷河内から俵島まで走ったわけです。直線でも15kmある距離です。山坂を超えれば、20kmはあったと思われます。

 

 

向津具半島は山ばかりで、平地のほとんどない所です。それだけに、キツネやタヌキには格好の棲み処と言えます。他にも数多くの言い伝えがありますが、それはまた折を見て。